引っ越し料金の「相場」に公的な裏付けはない。消費者物価指数の全745品目を調べた
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この記事の根拠
- 独自集計 消費者物価指数の品目別価格指数745列と家計調査の収支項目分類1,767件を機械的に走査したが、引越に該当する品目は1件もなかった
- 独自集計 日本通運の公表料金表から計算すると、繁忙期の割増は定額のため、東京→東京では+39.3%、東京→福岡では+21.6%と近距離ほど割増率が高くなる
引っ越し費用を調べると、「単身の相場は◯万円」という数字がどこにでも出てきます。
その数字の出典を確認したことはあるでしょうか。 調べたところ、根拠にできる公的統計が存在しませんでした。
消費者物価指数に「引越」はない
総務省統計局の消費者物価指数には、品目別価格指数という月次の系列があります。1970年から続いていて、パンも散髪も高速道路料金も入っています。
そこに引越があるかを、全745列を機械的に走査しました。
該当は0件でした。
「運送料」という品目は1件ありますが、品目符号7433、英名 Forwarding charges で、「通信」中分類の配下にあります。宅配便の料金であって引越ではありません。
家計調査の収支項目分類(2025年1月改定)も同様に調べました。共有文字列1,767件を走査して、「引越」「移転」「移送」はいずれも0件です。
つまり**「引越料金は前年比で何%上がった」を公的な数字で言うことはできません。** 世に出ている「相場」は、事業者へのアンケートか、比較サイトが自社の見積データを集計したものです。それが悪いわけではありませんが、公的統計と同じ重みでは扱えません。
代わりに使えるもの
料金を公表している事業者があります。日本通運は単身パックLの料金表をCSVで公開していて、発着エリアの組み合わせごとに額が確定しています。ここからなら推測なしで計算できます。
繁忙期の割増は、近距離ほど重い
日本通運の公表料金表と割増条件から計算しました。
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| 区間 | 通常 | 3/20〜4/5 | さらに土日祝 | 増加率 |
|---|---|---|---|---|
| 東京→東京 | 28,000円 | 36,800円 | 39,000円 | +39.3% |
| 東京→神奈川 | 30,000円 | 38,800円 | 41,000円 | +36.7% |
| 東京→大阪 | 39,000円 | 47,800円 | 50,000円 | +28.2% |
| 東京→福岡 | 51,000円 | 59,800円 | 62,000円 | +21.6% |
割増の公式表記はこうなっています。
土日祝日配達 +2,200円(税込)/3/20〜4/5までの期間※ +8,800円(税込) ※集荷・配達の両方、及びどちらか一方が期間内の場合
割増は率ではなく定額です。 8,800円と2,200円が、距離に関係なく同じだけ乗ります。
その結果、基本料金が安い近距離ほど、割増の比率が大きくなります。 東京都内の引っ越しは+39.3%、東京から福岡は+21.6%。同じ日に引っ越しても、近距離の人のほうが割高な扱いを受けることになります。
「繁忙期は3割増」といった説明をよく見ますが、距離によって2割から4割まで変わります。
「繁忙期」の定義が事業者で違う
さらに、繁忙期の期間そのものが揃っていません。
| 事業者 | 繁忙期の定義 |
|---|---|
| 日本通運 | 3/20〜4/5 |
| 赤帽(首都圏) | 3/1〜4/5 |
3月上旬は、日本通運では通常料金、赤帽では繁忙期料金です。3月10日の引っ越しで見積もりを取ると、一方は割増なし、もう一方は1割増になります。
赤帽の料金体系も参考までに挙げておきます。
| 料金 | |
|---|---|
| 通常(作業2時間・20km以内) | 14,300円 |
| 繁忙期(+10%) | 15,730円 |
| 土日祝(+20%) | 17,160円 |
国土交通省は報道発表で「3月の引越件数は通常月の約2倍」としています。需要が集中する時期であることは公的にも示されていますが、その時期の定義は事業者ごとの商慣行です。
キャンセル料だけは、国が上限を決めている
料金と違い、キャンセル料は標準引越運送約款という国土交通省の告示で上限が決まっています。事業者を問いません。
| タイミング | 現在の上限 | 2018年5月以前 |
|---|---|---|
| 受取日の前々日 | 20% | 規定なし |
| 受取日の前日 | 30% | 10% |
| 受取日の当日 | 50% | 20% |
2018年6月1日の改正で、当日キャンセルが20%から50%へ、前日が10%から30%へ引き上げられました。 前々日の規定は改正で新設されたものです。直前キャンセルの負担は、この時に2.5倍から3倍になっています。
古い記事に「当日キャンセルでも2割」と書いてあることがありますが、改正前の情報です。
事業者側にも義務があります
同じ約款の第3条第7項に、こう定められています。
当店は、見積書に記載した荷物の受取日の三日前までに、申込者に対して、見積書の記載内容の変更の有無等について確認を行います
この確認を怠った場合、事業者は解約手数料を請求できません(第21条第1項ただし書)。
3日前までに事業者から連絡が来ていない状態でキャンセルすることになった場合、この規定を確認する価値があります。
費用を下げる順序
計算からわかることを整理します。
- 3/20〜4/5を外す。日本通運なら8,800円、赤帽なら1割の差
- 土日祝を外す。2,200円または2割
- 近距離ほど時期をずらす効果が大きい。都内間なら約1万1千円、料金の4割に相当します
- キャンセルの可能性があるなら3日前までに判断する。前々日で20%、当日で50%
この記事の限界
日本通運の単身パックLに限った計算です。 家族の引っ越しや他社では、割増の方式が定額ではなく率の場合があり、そのときは距離による差は出ません。
赤帽の繁忙期は東京・埼玉・千葉・神奈川の組合員の定義です。 赤帽は地域ごとの協同組合の集まりなので、他地域では期間が異なる可能性があります。
国土交通省の「約2倍」は根拠数表が非公表です。 報道発表の本文にある表現で、グラフに数値ラベルがなく、月別の件数は公表されていません。この記事では国交省の文言をそのまま引用するにとどめ、個別月の件数は使っていません。
大手2社(サカイ引越センター・アート引越センター)は料金を公表していません。 サイト内を走査しましたが定額の料金表は存在せず、見積フォーム経由のみでした。比較対象に入れられていません。
キャンセル料は上限です。 約款は「◯%以内」と定めているので、実際の請求額はこれより低いことがあります。
料金と条件は改定されます。この記事の数値は記載の取得日時点のもので、契約前には必ず各社の公式情報を確認してください。
出典:総務省統計局「2020年基準消費者物価指数」「家計調査 収支項目分類」、国土交通省「標準引越運送約款」および報道発表、各社公表の料金表を取得して集計。