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電力会社の「燃料費調整単価」を並べて比べるのは無意味だった

電気・ガス 公開 2026-09-02

同じ月、同じエリアなのに 16.05円/kWh 燃料費調整単価が会社によってこれだけ開く

この記事の根拠

  • 独自集計 財務省貿易統計の2026年5〜7月平均から各社の算定式を再現したところ、同じ入力から東京ガス方式は−5.53円/kWh、オクトパス方式は+6.86円/kWhと符号が逆になった 財務省貿易統計 報道発表資料(主要商品別輸入・世界)を取得して集計 / 2026-09-02取得
  • 独自集計 原油・LNGのCIF単価は各社公表値と0.3%以内で一致したが、石炭のみ約10%高く出る 同上。差は貿易統計の「石炭」に製鉄用の原料炭が含まれるため / 2026-09-02取得

電力会社の比較記事には、たいてい「燃料費調整単価の比較表」が載っています。数字が小さい会社が良い会社、という並べ方です。

その表を作るのをやめたほうがいい、という話をします。燃料費調整単価は、会社をまたいで比べられる数字ではありません。

きっかけは、2026年10月分の単価を並べていて手が止まったことでした。同じ東京電力エリア、同じ月なのに、こうなっていたからです。

会社 2026年10月分 燃料費調整単価
東京電力エナジーパートナー(低圧) ▲9.30 円/kWh
東京ガス(東京電力エリア) −9.30 円/kWh
オクトパスエナジー(東京電力エリア) +6.75 円/kWh

前の2社は小数第2位まで完全に一致しているのに、オクトパスだけ符号が逆です。同じ制度、同じエリア、同じ月です。

燃料費調整額は「共通の数字」ではない

燃料費調整単価は、次の式で決まります。

燃料費調整単価 =(平均燃料価格 − 基準燃料価格)× 基準単価 ÷ 1,000
平均燃料価格   = α×原油価格 + β×LNG価格 + γ×石炭価格

ここで重要なのは、α・β・γ も、基準燃料価格も、基準単価も、会社ごとに違うという点です。共通なのは原油・LNG・石炭の価格だけで、それは財務省の貿易統計から取られる全国一律の値です。

実際の値を並べると、こうなります。

東京ガス/CDエナジー/ENEOS オクトパスエナジー
α(原油) 0.0048 0.1970
β(LNG) 0.3827 0.4435
γ(石炭) 0.6584 0.2512
基準燃料価格 86,100 円/kl 44,200 円/kl
基準単価 0.183 円 0.232 円

係数がまったく違います。東京ガスは石炭の比重が6割超なのに対し、オクトパスは原油の比重が40倍以上ある。同じ燃料価格を入れても、出てくる「平均燃料価格」が別の数字になります。

国の統計から自分で計算してみた

各社の公表値をそのまま信じずに、元データから再現してみました。財務省貿易統計の報道発表資料から、輸入(世界)の主要商品を取り、数量と金額からCIF単価を割り出します。

2026年5月〜7月の3か月平均は次のとおりでした。

燃料 3か月平均CIF単価
原油及び粗油 116,038 円/KL
液化天然ガス 100,130 円/t
石炭 25,868 円/t

これを両社の式に代入します。

東京ガス方式
  平均燃料価格 = 0.0048×116,038 + 0.3827×100,130 + 0.6584×25,868 = 55,908 円/kl
  燃調単価     = (55,908 − 86,100) × 0.183 ÷ 1,000 = −5.53 円/kWh

オクトパス方式
  平均燃料価格 = 0.1970×116,038 + 0.4435×100,130 + 0.2512×25,868 = 73,765 円/kl
  燃調単価     = (73,765 − 44,200) × 0.232 ÷ 1,000 = +6.86 円/kWh

公表値は東京ガスが−5.80円(政府支援を除いた素の値)、オクトパスが+6.75円です。同じ貿易統計を入れて、片方はマイナス、もう片方はプラスになることが再現できました。

差が生まれる理由は、基準燃料価格が 86,100円 と 44,200円 で倍近く違うからです。基準を低く置けば、同じ燃料価格でも「基準を上回った」と判定され、プラスの調整になります。

では、オクトパスは高いのか

ここで終わると、また間違えます。基準燃料価格を低く置いている会社は、そのぶん電力量料金の単価そのものを低く設定しているからです。

段階 東京ガス 基本プラン グリーンオクトパス
1段(〜120kWh) 29.70 円 19.27 円
2段(〜300kWh) 35.69 円 24.47 円
3段(300kWh〜) 39.50 円 27.86 円

3段目で11.64円も違います。単価表だけ見ればオクトパスの圧勝です。

そこで、燃料費調整と政府支援を足し合わせた実質単価で計算し直します。

段階 東京ガス オクトパス
1段 29.70 − 9.30 = 20.40 19.27 + 6.75 − 3.50 = 22.52
2段 35.69 − 9.30 = 26.39 24.47 + 6.75 − 3.50 = 27.72
3段 39.50 − 9.30 = 30.20 27.86 + 6.75 − 3.50 = 31.11

逆転しました。基本料金を含めた月額でも同じです(30日、再エネ賦課金と各種割引は除外)。

使用量 東京ガス オクトパス
300kWh / 30A 8,133 円 8,565 円 +432 円
400kWh / 40A 11,465 円 11,967 円 +502 円
500kWh / 40A 14,485 円 15,078 円 +593 円

従量単価で11.64円安かったはずが、燃調で16.05円の逆転を食らって、総額では月432円高い。「燃調が安い会社ほど安い」も「従量単価が安い会社ほど安い」も、どちらも成り立ちません。

低い基準燃料価格は、料金の一部を単価表から燃調へ移し替える仕組みとして働きます。どちらが得かは、そのときの燃料市況で毎月変わります。

比較するなら、この形しかない

会社をまたいで比べられるのは、次の2つだけです。

実質従量単価

電力量料金単価 + 燃料費調整単価 − 政府支援値引き単価

※ 政府支援を燃調単価に含めて公表している会社(東京ガス等)は、二重に引かないよう注意。

月額総額

基本料金 + Σ(段階別単価 × 使用量) + 燃調単価 × 使用量
  − 支援値引き × 使用量 + 再エネ賦課金 × 使用量 − 各種割引

比較の前に揃えるべき条件が4つあります。今回はすべてズレていました。

  1. 政府支援の計上場所。燃調に含める会社と、総額から別に引く会社がある
  2. 基本料金の課金単位。月額固定の会社と日額の会社があり、月の日数で50円以上ぶれる
  3. 算定対象月。2026年10月分は2026年5〜7月の貿易統計にもとづく
  4. 市場連動型は同じ土俵に乗らない。Looopでんきやシンプルオクトパスには燃料費調整の仕組み自体がない

この記事の限界

石炭に誤差があります。 貿易統計の主要商品「石炭」には製鉄用の原料炭が混ざっており、燃料費調整が使う発電用の一般炭より高くなります。今回の再現でも石炭だけ約10%高く出ました(25,868円に対し各社公表は23,379円)。原油とLNGは0.3%以内で一致しています。結果として、燃調単価の再現誤差は0.1〜0.3円/kWh残ります。符号や大小関係の検証には十分ですが、公表値の完全再現には一般炭だけのHSコード別統計が必要です。

この比較は2026年10月で前提が変わります。 記事中の政府支援(低圧3.50円/kWh)は、現時点で公表されている実施期間が2026年9月使用分(10月検針分)までです。延長の発表はありません。支援が終われば実質単価は全社そろって3.50円上がり、上の表の金額はすべて変わります。支援の過去の実施履歴と、いつ・いくら上がるかは 電気代の政府支援は9月使用分で切れる にまとめています。

比較対象は2社です。 業界全体の傾向を示すにはサンプルが足りません。他社の係数も順次確認して追記します。

料金は毎月改定されます。この記事の数値は記載の取得日時点のもので、申し込みの前には必ず各社の公式情報を確認してください。


出典:財務省貿易統計 報道発表資料(主要商品別輸入・世界、2026年5月分〜7月分)を加工して作成。各社の算定係数・単価は各社が公開する料金表および電気需給約款・メニュー定義書によります。